44歳、私がアートクープを始めた理由
最初の出会いは、ただの“憧れ”だった
私がアートクープに出会ったのは、4年ほど前。
カンパーニュのクープが開いた写真をよくInstagramで眺めていたある日、とても美しい模様が入ったサワードゥカンパーニュの画像が目に飛び込んできました。
その時はただ「綺麗だなぁ」と思っただけ。
本格的に学ぶというより、いつかできたらいいな、という憧れの存在でした。
その後、私は独学でハードパン作りに取り組み始めました。
焼き上がったのは、座布団のようにぺたんこなパンや、カチカチのもの。クープが割れず、理想の姿とは程遠い日々が続きました。
そんな中、「微量イーストでクープが開くハードパン」という講座を見つけて受講することに。そこでたまたまアートクープの講師の方と出会い、数年越しの憧れが、具体的な“学び”へと動き出したのです。
座布団パンからはじまった挑戦
しかしすぐに壁にぶつかりました。イーストでハードパンを作れるようになったけど、アートクープは誰に教わればいい??来る日も来る日もYouTubeを見ながら挑戦しました。
そして現在に至るのですが、サワードゥで焼くカンパーニュは、正直とても難しかったです。温度管理、発酵の見極め、焼成温度などなど。
何度も焼いては落ち込み、でもまたチャレンジする。
「今日はいい感じかも」と思っても、クープが開かなかったり、生地が締まりすぎたり。
でも、少しずつコツがつかめてくると、
生地に触れる感覚が手に馴染んできて、発酵のタイミングも少しずつ読めるようになってきました。
そしてついに、アートクープに挑戦できる段階に到達。
模様を考えるのが楽しくて、生地を仕込んではクープを入れる毎日。私にとっては幸せなライフワークです。なにより、焼き上がったパンがとても美味しい。
美味しさと、模様が生まれるワクワク感。その両方が味わえる今の時間が、何よりのご褒美です。そしてできるようになった今思うのは、
同じ模様でも、毎回違う
アートクープの面白さは、何度やっても“同じ”にならないこと。
同じ模様を描いたはずなのに、焼き上がると表情が違う。
生地の状態、刃の入れ方、オーブンの温度。どれかが少しでも違えば、パンの仕上がりは変わります。
でも、だからこそ毎回が新鮮で、毎回が特別。
私はその“違い”を楽しむようになりました。
そして気づいたんです。
私にとってアートクープは、「瞑想」みたいな時間だと。
静かに集中して、ちょうどいい強さでナイフを走らせる。
その繊細さと向き合うひとときが、心を整えてくれるのです。
まだ知られていない、この美しき世界を
日本では、アートクープという技術はまだ広く知られていません。
「そんな模様のパンがあるなんて知らなかった」と驚かれることも多いです。
私はこの美しい技術と、その中にある豊かさを、もっと多くの人に届けていきたい。
美味しいパンを作りながら、自分自身とも向き合える。
そんな静かな時間があるということを、知ってもらえたら嬉しいです。
そして、もしあなたがハードパンやサワードゥに興味があるなら、
この世界の扉を、ぜひ一度開けてみてください。
きっと、自分だけの模様と出会えるはずです。